アワビの貝殻の真珠層は優れた薬膳素材

緑内障、白内障対策 アワビの貝殻の真珠層は優れた薬膳素材

最近、白内障や緑内障の方が増えています。このような症状の対策として経験的に用いられてきたのがアワビの貝殻の真珠層なのです。

漢方ではアワビの貝殻の真珠層を石決明と呼びます。

真珠層は貝殻の内側のキラキラする部分を指します。

また、「石決明」とは、「目を明らかにする石のように硬いもの」というような意味です。漢方では古くから緑内障や白内障、角膜炎などの眼疾患対策に用いられてきました。

白内障は、水晶体の変性によるもので、光が網膜に透過できなくなり、視力が低下する疾患です。

一般的には40代後半から現れはじめ、60代では60%以上、80代になると95%以上の人が発症していると言われています。

進行しても白濁した水晶体を人工レンズに入れ替えることで、視力を取り戻せますが、全く問題がないとは言えません。まぶしく感じる、ピントが合わせにくい、飛蚊症が目立つなどの症状を訴える方もいます。また、緑内障が悪化したという例もあります。

では、どうして白内障は何故起こるのでしょうか。

実は 白内障の原因は完全には解明されていません。

有力な仮説ですが、水晶体が濁ってしまう白内障は加齢によって水晶体内部のタンパク質が変性していき、白濁してしまうのが原因とされています。「加齢性白内障」と呼ばれ、活性酸素による酸化現象が疑われます。

また、目は結合組織に富んでいます。その構成要素である コラーゲンやムコ多糖(コンドロイチン)の減少も、 白内障の原因のひとつと考えられています。

白内障水晶体変性

更に白内障の原因として考えられているのが紫外線です。

紫外線を浴びることによって、活性酸素が発生しやすくなります。

活性酸素にはタンパク質の変性を促進させる働きがあるため、 紫外線量が増えている近年、若年層にも白内障が広がりつつあります。中には30代で発症してしまう人もいます。

他に糖尿病が原因の白内障もあります。糖尿病になると、合併症として白内障が起こりやすくなり、進行も早いと言われています。

進行すると白濁が瞳から観察できます。

白内障瞳白濁

次は緑内障です。

緑内障は眼圧の上昇等によって視神経に障害が起き、進行すると視野欠損が大きくなり、やがて失明に至るという疾患です。

では、緑内障は何故起こるのでしょう

眼圧が高くなり、眼底が圧迫されることで、視神経乳頭の機能が衰え、視野狭窄が発生します。

この視野狭窄が進行すると、目の前に黒いカーテンが引かれたように失明に至ります。

では、眼圧が正常だから安心できるかというと、そうではありません。

緑内障は、一般には眼の中の圧力(眼圧)が高いことが原因と言われていますが、眼圧が正常範囲内であっても視野狭窄が進む「正常眼圧緑内障」も増加しています。

緑内障眼圧

ストレスや疲労で交感神経が優位に立つと血管が収縮し、血流が悪くなることで視神経に栄養が行き渡らなくなり、その結果 視神経萎縮が起こる という説や、視神経の脆弱性が関与している という説など、様々な説が提唱がされていますが、どれも視神経に起こる異常が問題視されています。

緑内障視野狭窄

白内障に比べると発症率は低いものの、患者数は毎年増加の一途を辿っています。

現在、日本では中途失明の原因の第1位にあげられています。

厄介なのは、日本人の緑内障患者の多くは眼圧が低めの低眼圧緑内障ということで、いまだに画期的な治療法が確立していないのが現状です。

いずれにしろ、更に眼圧を下げることが必要ですが、眼底の血流改善も求められます。

気が付かないうちに進行しているケースもありますので、健康診断での眼底検査は必須です。

そこで、その対策として経験的に用いられてきたのがアワビの貝殻の真珠層なのです。

漢方では、眼科疾患に対し、古くからアワビの貝殻を用いてきました。

1300年代に日本に伝えられた中国の古典医学書「本草綱目」では、アワビの貝殻を”石決明“という生薬名で紹介し、その効果を、”目ノ障り、翳ノ痛ミ、青盲ヲ主ル“とあらわしています。

つまり、底翳の類、現代医学でいうところの白内障や緑内障に有効ということです。

更に、”石決明”は上薬なりとも記載しています。上薬とは、長く服用しても害はなく、体を丈夫にする保健薬的な効果がある貴重な生薬という意味です。

日本で盛んに用いられるようになったと言えるのは、1700年代に発刊された我国初の眼科専門書「眼目名鑑」に石決明を主剤にした真珠散、あるいは大真珠散という処方が載ってからです。

やはり、底翳やはやり目(結膜炎、角膜炎、トラコーマ等)に奏効するとあります。この書が全国に流布した1800年代には爆発的なブームがおこり、海から遠く離れた山間部に住む者までこの漢方薬の恩恵に与ったそうです。また、こんな状況ですから当然アワビの貝殻は不足してしまい、牡蠣の貝殻を代用にしたマガイ物も出回ったようです。

このアワビですが、古くは貝殻を高温で焼き、真珠層が剥がれやすい状態にし てから削り取っていました。しかし、この方法では 有効成分が蒸発してしまい、効力が低下してしまいます。

したがって、一般的には貝殻自体を粉にして、利用することになります。

この場合、しっかりした効果を期待するとなると1日3g近く摂取しなければなりません。

そこで、現代の抽出技術によりアワビの貝殻の真珠層タンパク質であるコンキオリンを効率的に抽出した水溶性のエキスが出回るようになり、少量でも効果が期待できるようになりました。

アワビの貝殻のコンキオリンには次のような作用があると考えられています。

  • 副交感神経を刺激することで血流を改善し、視神経に栄養を行き渡らせ、視神経の機能を高めて、見えやすくします。
  • コラーゲンやコンドロイチンの生成を助け、視神経や水晶体、 網膜を健康な状態に保ちます。
  • 抗酸化作用で、活性酸素によるコラーゲンタンパク質の変性を抑えます。
  • 房水の産生を抑えると同時に、房水の排出を促進し、眼圧を 下げます。

そこで、このような作用の裏付けの一端を明らかにするような基礎実験が行われました。

アワビの貝殻の真珠層エキスの効果の裏付け

先ずは抗白内障効果からです。

白内障になると眼中のナトリウムがカリウムに比べ多く存在するようになります。つまり、ナトリウム/カリウム比が大きくなるのです。又、GSHという酵素の分布も影響を受け、全体的に減少していきます。

摘出したラットの目を白内障にさせる操作をしました。但し、一部のラット群の目には、わずかですが石決明エキスも与えました。

結果は、アワビの貝殻の真珠層エキスを与えられたラット群の目には、そうでないラット群の目に比べ、ナトリウム/カリウム比はわずかな上昇に抑えられました。GSHも比較してわずかな減少にとどまりました。

このことは実験室レベルではありますが、アワビの貝殻の真珠層エキスには確かな抗白内障作用があるということを示唆しています。

作用成分としては、抗酸化作用の強いコンキオリンなどのアミノ酸類が考えられます。

ラットの水晶体比較写真

次は抗緑内障効果です。

イソプロテレノールを用いた動物実験です。イソプロテレノールは交感神経の β1受容体を刺激して心拍数を増加させます。

この実験は、アワビの貝殻の真珠層エキスがイソプロテレノールの作用を抑制して、心拍数を下げられるかを調べたのです。

交感神経のβ1受容体をブロックすると、房水の産生を抑え、眼圧を下げられる可能性があるからです。

結果は、イソプロテレノールのβ1受容体刺激作用を抑制して、心拍数を下げました。

作用成分としては、コンキオリンなどのタンパク質が考えられますが、現段階では定かではありません。

心拍数

その他にも様々な実験が行われています。下記に示しました。

  1. アワビの貝殻真珠層エキスのDPPHラジカル補足能(抗酸化作用)の検討
    結果:有意的にDPPHラジカル補足能が認められました。つまり、強い抗酸化作用が示唆されたのです。白内障の予防に関係するデータです。
  2. アワビの貝殻真珠層エキスの抗炎、抗アレルギー活性の検討
    結果:有意的に抗炎、抗アレルギー活性が認められました。結膜炎や角膜炎の予防に関係するデータです。
  3. アワビの貝殻真珠層エキスのマウスにおける単回経口投与による安全性試験
    結果:マウスには異常はみられませんでした。一般的な安全性を示すデータです。

更に抗緑内障効果の臨床として、眼圧や網膜血流に与える影響も調べました。現代の眼科学では、緑内障の進行を食い止めるためには眼圧を下げるだけではなく、網膜の血流も良くする必要があると言われるようになりました。

そこで、リアルタイムに血流が測定できるレーザースペックルフローグラフィー装置を用い、アワビの貝殻真珠層エキスによる網膜血流の変化を調べました。同時に眼圧も測定しています。

調査の内容は下記の通りです。

表題:アワビの貝殻エキスの眼底血流、並びに眼圧に及ぼす影響

調査概要

1)対象者

健康人7名を対象者にした。内訳は、男性2名女性5名で、年齢は38~68才であった。なお、対象者は各々自由意思で参加してもらった。

2)試験方法

暗幕で遮光された暗室(照度10ルックス以下)に案内し、検査が可能な程度に瞳孔が開いているか否かを確かめた後、同室でレーザースペックルフローグラフィー(Laser Speckle Flowgraphy)を用いて眼底血流を測定した。その後、眼圧計で眼圧を測定した。さらに、アワビの貝殻真珠層エキス350mgを水で服用してもらい、30~60分後に再度同様に、眼底血流と眼圧の測定を行った。

レーザースペックルフローグラフィー
3)判定方法

アワビの貝殻真珠層エキスの投与前と投与後で、網膜血流と眼圧を測定し、服用後に血流が増加したものを改善、低下したものを減少、変化がなかったものを不変とした。また、眼圧に関しては、眼圧が下がったものを改善、上がったものを上昇、変化がなかったものを不変とした。この結果をアワビの貝殻真珠層エキスの抗緑内障作用の判定基準とした。なお、評価は単眼ごとに行った。

6)副反応

予期できぬ悪症状があらわれた場合を副反応とし、直ちに調査を中止することにした。

7)併用治療やその他の注意

今まで服用していた薬剤はそのままで、新たに薬剤を追加服用することを禁じた。また、日常の生活習慣も今まで通りとした。

8)調査結果

表1に示すように、アワビの貝殻真珠層エキス投与後、被験者全員に明らかな網膜血流の増加が確認された。また、眼圧については、表2の通り、7割以上の改善率を示した。特記すべきことは、アワビの貝殻真珠層エキス投与後、被験者の多くが近くの物が見えやすくなったとか、視野が明るくなったと感想を述べていたことだ。

終わりに

アワビの貝殻の真珠層を、漢方では石決明(せっけつめい)と呼ぶ。ミミ貝科のトコブシ、あるいはアワビの貝殻の真珠層に含まれるコンキオリンが作用成分と思われる。

中国では、古くから、この石決明を眼科用剤として利用してきた。「本草綱目」に“目ノ障り、翳ノ痛ミ、青盲ヲ主ル”とあるように、底翳(そこひ)の類、現代医学でいうところの白内障や緑内障、網膜症に特に有効とされている。

また、我国でも、1700年代初頭に発刊された我国初の眼科専門書「眼目名鑑」に石決明を主剤とした真珠散等の処方が紹介されている。やはり、底翳や流行り目(結膜炎、角膜炎、トラコーマ等)に奏効するとある。

さらに、この書が日本各地に流布した1800年代になると、爆発的なブームが起きたようで、当時の眼科医の多くが石決明を主剤とした独自の処方を考案し、さかんに臨床に用いたと「眼科秘伝書」等の古文献に記載がある。

但し、アワビの貝殻を焼き、真珠層が剥がれやすくなった状態で削り取り、点眼薬や内服薬に配合したとのことなので、貴重な生薬として珍重されていた。

その後、時代は明治となり、近代文明の幕開けとともに西洋医学が我国の医療の根幹をなしてくると、東洋医学は迷信まじないの類と蔑視され、衰退の一途をたどるようになってしまった。当然、石決明の存在価値も薄れていった。ところが、平均寿命が延びた昨今、西洋医学が不得意とする慢性病が急増し、大きな社会問題にまで発展している。 

この問題は、眼科領域でも同様で、慢性に経過する白内障、緑内障患者の受診率が高くなっている。

したがって、白内障、緑内障は、予防や悪化を防ぐ手段が第一に求められる。

その目的を達成するには、慢性病対策に最適とされる東洋医学を併用することが、現実的な選択肢となる。

そこで、本調査を行ったのであるが、眼科疾患に関する古典的な効能の一端が垣間みれた。

結果として全被験者の網膜乳頭付近の血流が増加していることが確認されたからだ。また、多くの被験者に眼圧の低下がみられた。健康人を対象にした研究であったが、網膜血流が促進されることは、緑内障を始め各網膜疾患の改善に利用できる可能性を秘めている。

アワビの貝殻真珠層エキスがどのような作用機序で網膜血流を増加させたのかは定かではない。

βブロッカー的な作用が眼圧低下を起こし、その二次的な影響による網膜血流の増加も考えられる。また、推測の域を出ないが、被験者の多くが異口同音に近くのものが見えやすくなった、スマホの文字がはっきり見えるようになったと述べていたので、毛様体筋の収縮能が高まり、眼房水の排出が促進され眼圧が下がったことが関与している可能性もある。

いずれにしろ、今後被験者数を増やしての再調査やα受容体などに対する作用も調べる必要がある。

尚、統計処理に関しては、Wilcoxonの符号付順位和検定を用いた。眼底血流と眼圧について、ともに有意差がみられた。

表1 眼底血流

表1 眼底血流

検定結果:P < 0.01 (※Wilcoxonの符号付順位和検定)

元データ

症例1

右眼

投与前

投与後

左眼

投与前

投与後

症例2

右眼

投与前

投与後

左眼

投与前

投与後

症例3

右眼

投与前

投与後

左眼

投与前

投与後

症例4

右眼

投与前

投与後

左眼

投与前

投与後

症例5

右眼

投与前

投与後

左眼

投与前

投与後

症例6

右眼

投与前

投与後

左眼

投与前

投与後

症例7

右眼

投与前

投与後

左眼

投与前

投与後

表2 眼圧

表2眼圧

検定結果:P < 0.01 (※Wilcoxonの符号付順位和検定)

このように白内障や緑内障の予防や緩和に役立つアワビの貝殻の真珠層ですが、薬膳としては菊花やクコシ、ニョテイシを配合することで、更に効果を高めます。

相乗効果が期待できる薬膳素材

菊花

菊花

菊花は目の充血や眼痛、視力低下、多涙症、緑内障等の眼病の他、高血圧の治療にも利用されてきた生薬です。

角膜の炎症を抑え、眼底の血流を改善すると言われています。また、クコの実と最も相性が良いと言われ、クコの実の作用を相乗的に高める働きをします。

老眼や白内障対策に用いる杞菊地黄丸という漢方処方がありますが、その主剤となっているのが菊花とクコの実です。

菊花に含まれる有効成分のアピゲニン(精油成分)はフラボノイドの一種で、頭部の血流を改善し、目の充血やのぼせを鎮める働きがあると言われています。

また、クリサンテミンはポリフェノールの一種で、優れた抗酸化作用があると言われていまる。

更にルテインもポリフェノールの一種で、優れた抗酸化作用で目の黄斑部の保護など、視力低下予防が期待されます。

クコの実

クコの実

クコの実には、副交感神経を刺激し、心拍数や血圧を下げる働きがあり、血管拡張作用と血流改善作用もあることから、コリンと同様に房水の排出を促進し、眼圧を下げる効果があると考えられています。

また、漢方では「クコシ」と呼び、「長期服用することで心身を充実し、体質強化ができ、視力も向上する」とされ、老眼になりにくいとも言われています。

クコの実に含まれる有効成分のカロテノイドは動物に吸収されるとビタミンAになります。網膜細胞の保護に用いられています。ビタミンAが欠乏すると、夜盲症などの症状を生じます。

また、ゼアキサンチンは目の網膜に存在し、黄斑中央部において主要な構成物質となっています。

抗酸化作用があり、網膜の酸化による変性を防いでいると考えられています。

ニョテイの実

ニョテイの実

ニョテイの実は、生薬名を女貞子(ニョテイシ)と言います。中医学では滋養薬に属し、古くからアンチエイジング効果が知られ、続けて飲んでいると徐々に強健になり、年を取っても若々しく生活を送れると言われてきました。

特に婦人の不定愁訴を緩和すると言われ、様々な更年期障害向けの処方に組み込まれています。また、眼精疲労や初期の中心性網膜炎、老人性白内障に効果的と言われています。

ニョテイの実に含まれるトリテルペン類のオレアノール酸、ウルソール酸は高麗人参やきのこの霊芝の有効成分として知られ、抗炎症作用、抗酸化作用などの生理活性を有するのが特徴です。また、マンニトールは糖アルコールの一種で、循環血漿量を増加させると言われています。

そのため、眼圧を亢進させる眼球内の水分を血液中に移動させ、眼圧を下げる作用が期待されます。